デンマーク発のライフスタイル「ヒュッゲ」が話題となり、くつろぎの時間の大切さを知った人も多いのではないでしょうか? おうち時間が増えたいま、ますます注目を浴びているのが、幸福度が高いとされている北欧などの国々の、ライフスタイルコンセプト。この記事では、最近注目されているオランダ流の過ごし方「ニクセン」についてご紹介します。

まず初めに、ヒュッゲとは居心地のいい空間でのんびりしようという、デンマーク発祥の考え方です。次に話題になったラーゴンは、「何ごともやりすぎないでほどほどに」というスウェーデンのライフスタイル。そして現在、ますます忙しくストレスフルになる生活から抜け出すための方法として、オランダの「ニクセン」という考え方が注目されています。やり方はとてもシンプル。何もしない──それだけです。

ニクセンって何?

「ニクセンという言葉には、何もしない、だらだら過ごす、何の役にもたたないことをする、という意味があります」と話すのは、オランダのコーチングセンター、CSRセントラムのマネージングディレクター、カロリン・ハミングさん。ハミングさんのコーチングセンターでは、ストレス改善や、燃え尽き症候群からの回復を手助けする活動を行っています。ニクセンを取り入れる方法はとてもシンプルで、何もせずぼんやりしたり、目の前の景色を眺めたり、音楽を聴いたりするだけです。「とにかく、目的を持たないこと」とハミングさんは言います。何かを完成させようとしたり、生産的な活動をしようとしないことが大切だそうです。

オランダ、ロッテルダムのエラスムス大学で幸福学を研究する社会学者のルート・フェーンホーヴェン教授は、たとえば「ただ椅子に座っていたり、窓の外をぼんやり見ていたりするだけ」だと話します。マインドフルネスは、“いま”というその瞬間に意識を集中し、自分の体の細かい動きを感じようとしますが、ニクセンは、時間の感覚も取り払って「ここ」だけがすべてです。何かに意識を集中することはせず、頭の中で自由に考えをめぐらせます。

フェーンホーヴェン教授はさらに「私たちにはリラックスする時間が必要です。リラックスしながら、例えば編み物など、半ば無意識にできる単純作業をするのもいいでしょう。自分にぴったり合ったリラックス方法を見つけることは、よりよい人生を生きていくスキルのひとつですね」と話します。すべての人に当てはまる正解は存在しないので、それぞれが試行錯誤しながら、自分が最もリラックスできる方法を見つけてほしいそうです。

どんなメリットが期待できる?

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ハミングさんよると、これまではオランダでも、ニクセンは「なまけること」「生産的でないこと」として否定的に見られてきたそうです。しかしアメリカをはじめ、世界中で人々のストレスレベルが上がり、燃え尽き症候群になるなど健康にまで影響が出るようになると、何もしないことはストレス対策の有効な手段だというポジティブな認識が医学界で広がり始めました。

カリフォルニア大学バークレー校のグレーター・グッド・サイエンス・センターで研修部門のディレクターを務めるイブ・エクマンさんは、昔のようにのんびりし、人とつながりたいと思い、そのための方法を探す人が多いと話しています。エクマンさんによると、全米の成人および10代の青少年のストレスレベルは”驚異的”だそうです。

エクマンさんはストレスと燃え尽き症候群について研究していますが、スローダウンすることにはメリットがあるという、心強い研究結果が出ているそうです。不安感が減るなどの心理上のメリットに加え、体にもいい影響が表れ、老化が抑えられたり、風邪に対する抵抗力が強くなったりすることが期待できるのだと言います。それを聞くと、毎日忙しくて大量の仕事に追われている人も、何とか時間をやりくりしてニクセンにトライしたくなるかもしれませんね。

でも、メリットはそれだけではありません。フェーンホーヴェン教授によると、ニクセンを実践すると新しいアイデアが思いつきやすくなるそうです。教授は、人生の楽しさに関する研究を集めたワールド・データベース・オブ・ハピネスのディレクターも務めていますが、「ニクセンを実践している、何もしていない時でも、人間の脳は常に情報を処理しています。その処理能力を使って気になっていた問題を解決することもできるのです」と話しています。そして普段よりも、クリエイティビティが高まるとのことです。長い間困っていたことについて散歩中に解決策を思いついたり、ぼんやりしているときにビジネスのいいアイデアがひらめいたりするという話はよく聞きますが、それこそ、ニクセンの効果の表れかもしれません。

さらに、単純作業をしながらあれこれと考えごとをすると、クリエイティビティが高まり、問題解決能力が向上して、行き詰まっていた問題を解決できることがあるという研究結果もあります。2013年の学術誌『フロンティアーズ・イン・サイコロジー』で、ぼんやりと考えをめぐらせることの利点と問題点に関する研究結果では、とりとめのない考えごとによって、目標達成につながるひらめきが得られたり、そのために取るべき行動がクリアになったりすることがあるそうです。

ニクセンを実践するには?

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「何もしない」というのは、実はそれほど簡単ではありません。たとえば、静かに椅子に座ったままじっと外を眺め続けることは、案外難しいですよね。ハミングさんによると、常に「何かをする」ことに慣れている人がニクセンを実践しようとすると、最初のうちは体がムズムズして落ち着かなかったりするそうです。ハミングさんが指導をする時は、毎日数分ずつトライするようにすすめています。続けるうちに、やがて違和感がなくなってくるので、そうしたら少しずつ時間を長くしていけばいいのです。できれば週のうち1日は、夜に何の予定も仕事も入れないようにできると理想的です。「思い切って、だらだらしましょうよ」とハミングさん。「それができれば、本来の生活を取り戻すことができるし、ほんのひとときでも、義務から解放されますよ」

ニクセンにもデメリットはあるの?

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ぼんやりと考えをめぐらせると頭がすっきりするとは言え、グレーター・グッド・サイエンス・センターのエクマンさんによると、あまり長くやりすぎると反すう思考にはまってしまい、逆効果になるという論文があるそうです。その結果、体にも悪影響が出る可能性があります。2013年に発表された論文「マインドワンダリングの利点と問題点」で報告された実験では、マインドワンダリング(目の前の課題とはまったく関係のないことを考えて、ぼんやりとすること)を行った人は、その後24時間の間の心拍数が高く、その夜の寝つきが悪かったという結果になったそうです。ただし論文には、こうした結果はマインドワンダリングの直後に表れたもので、その結果をもとに長期的な心の状態を予測することはできないと書かれています。また、日中ぼんやりと考えごとをするのは、それが家族や友人のことならば特に、人生の満足度を高めるそうです。

そこで、「創造的かつ想像的なマインドワンダリングのやり方を練習しなければなりません」とエクマンさんは言います。その「入り口」としておすすめしたいのは、自然のなかを散歩したり、感謝の手紙を書いたりすること。本当にリラックスした時の気分に、徐々に近づくことができるそうです。

当然ですが、常にニクセンを実践するのは現実的ではありません。そんなことをしたら、それこそ何もできなくなってしまいますから。それよりも、アクティブな生活とのバランスを取りながら一定の時間を確保して取り組むことで、ニクセンのメリットを最大限に活用できると、フェーンホーヴェン教授はすすめています。休むことは役に立ちますし、活動した後のリラックスは気分のいいものですが、リラックスは人生の満足度を高め、幸福になるための最大の方法ではありません。実際、2016年に高齢者を対象に行った調査によると、生産的な活動に関わっている人の方が、社会とのつながりや自己効力感が強いため、幸福度が高いそうです。また逆に、幸福感によって生産性が高まるという研究もあります。つまり、リラックス、幸福感、生産性の間には、相関関係があるということなのです。

ニクセンの実践に必要なのは、どうやってリラックスするのが自分に一番向いているのかを知ることだと、フェーンホーヴェン教授は言います。散歩のように体を動かしながらぼんやりするでもいいし、編み物のように無意識にできることをするでも構いません。ときどきは目的もなくぼんやりすることを自分に許してあげることが、大切なのです。

 

この記事は TIME のソフィア・ゴットフリードが執筆し、NewsCred パブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは legal@newscred.comまでお願いいたします。