2019年10月7日、一般社団法人日本壁装協会の主催により「壁紙の未来を考え行動する会」が開催されました。プログラムメニューのひとつ「パネルディスカッション」ではインテリアコーディネーターや壁紙メーカーなど、5名の“壁紙とインテリアのプロたち”が結集。壁紙の今と未来について、熱いトークが交わされました。

※本記事は、ディスカッションの内容の一部を抜粋、まとめたものです。

 

●パネリスト

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寳田 陵氏 the range design 代表

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富田瓦正氏 株式会社トミタ 代表取締役社長

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前田光弘氏 中村表装株式会社 代表取締役

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南光雅仁氏 富士工業株式会社 代表取締役社長

 

●コーディネーター

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網村眞弓氏 Color Design Firm 代表

 

壁紙メーカーにも個性が求められる時代

壁紙のプロたちによるパネルディスカッションは、ホテルや住宅、商業施設などの設計やインテリアデザインを数多く手がけてきたthe range designの寳田陵氏による基調講演「世界のデザインホテルの壁から日本の壁を考える」を受けて開催されました。

(寳田氏の基調講演で紹介されたデザインホテル事例の記事はこちら。)

 

ディスカッションの前半は、壁紙の現状について、それぞれの立場からさまざまな意見が交わされました。

 

網村:壁紙の未来というテーマでお話を広げていただくために、まずは過去から現在までの歩みに目を向けてみます。壁紙のトレンドは景気や世の中の動向と連動しながら推移してきたといえると思います。

たとえば少し前の日本では、ファッション界でモノトーンが流行した時期がありました。そうすると建築分野にも影響があり、おしゃれでグラフィカルなビルなどが建ち始めます。当然、建築物の中で使われる壁紙についても、そうした流れに無関係ではなく、連動しながら開発が進められ、市場に出てくるようになっています。最近ではインテリア全般において日本テイストの人気が高く、壁紙についても木目や布目調のものなどが注目されています。

2019年4月のミラノサローネでは、照明を使って影を取り入れたり、温かみのあるカラーが多く使われていたりと、人間の感情や内面を重視するようなデザインが多く出てきている印象を受けました。

2020年は東京オリンピックの年でもあり、カラフルな色の使われ方の範囲が、インテリアだけでなくIT機器などにも影響していくのではないかと思っています。

そんな風に発展してきた壁紙業界の中で、パネリストのみなさまの会社でいま作られている壁紙や、最近の変化について教えていただけますか。

富田:トミタの創業は1923年で、あと数年で100年を迎えます。もともとはお屋敷に出入りしながら襖紙や屏風などをつくっていましたが、父の時代から壁紙をつくるようになりました。

気がついてみると、もう約30年間、毎年海外の展示会に行きながら、世界の動きを見るようにしてきたのですが、みんなが同じようなことしかやっていなかった時期もありました。しかし、最近はまたそれぞれの個性を出していかなければならないという風潮が戻り、自社の自信にもなっています。やはりこれからは、自分たちらしさをしっかり持っていかなければならないと思っています。

前田:中村表装は創業が慶應元年で、今年で155年になりました。弊社もかつては襖や障子、掛け軸、金屏風などをつくっていましたが、現在は9割以上が壁紙の施工です。さまざまな材料をお持ちして提案して、実際に張るところまでを手がけます。

最近は住宅の案件でアクセントクロスの施工事例が非常に増えていますが、アクセントに選ばれるのは、だいたい海外品であるという現状があります。日本でも、もっとデザインを考えたものができるはずだと思っています。やはりメーカー各社が自分のプライドを持って、特徴のある壁紙を作っていきたいし、作っていってほしいと私は思っています。

また、職人の育成にも力を入れていて、39年前から自分で学校を回って、求人することを始めました。今弊社に所属している職人は52人いるのですが、独立して地方に戻った子もたくさんいます。

南光:富士工業はもうすぐ60周年を迎える会社です。かつて日本の住宅において天井の約5割が“ひる石”で施工されている時代があったようで、そのころにひる石を糊をつけた紙に撒いてシート状の製品を作るところから会社が始まったと聞いています。現在、手作りは行っていませんが、もともと手で作っていたものを機械化して生産し、幅を広げていろんな壁紙をつくるようになりました。特に、弊社の場合は、石、もみ殻、ガラスビーズなど様々な素材の壁紙も作っていますので、いかにこの素材とデザインをマッチさせるかということに気を配っています。素材感を生かしながらコントラストや、光と影、濃淡などをどうデザインに落とし込むかといったことを常に意識しながら、商品開発を行っています。

寳田:日本のメーカーさんが作っていらっしゃるものは、私が普段仕事で使っている壁紙とは全く桁が違うものを作られています。それは未来においても残していかなくてはならないもので、私もぜひ使っていきたいなと思いました。

一方で、トレンドを追うことも大切だと私は思っています。単純にミーハー的に追うのではなく、時代が求めているものだととらえて、そこに対して今まで皆さんが作られてきたものを、うまくマッチングさせていく。そうすると、また新しい化学反応が起こって、昔の伝統技術を受け継ぎながらも今の時代に合った新しいものができてくるのではないかと思います。やはりその2つの軸を常に持ちながら商品を作っていけるといいのではないかと思いますね。

網村:今でも、皆さんそれぞれ作り込んでいらっしゃるのだと思いますが、もっと付加価値があるようなもの、あとは各社の特徴がきちんと出るようなものがいいですね。

寳田:そうですね。各社の特徴が出ているものであれば、価格が少々高いものがあってもいいと思っています。やはり日本の壁紙の良さを広めるためには、使って普及させていかなければならないので、価格は大切な要素のひとつです。ただ、だからといって量産品ばかりが増えてしまうと、さみしさを感じます。価格が高くてもきちんと良いものを増やしていったほうが、私たちが求めているものに合うのではないかと思っています。私たちは、時代が求めるものの代弁者として仕事をしていますので。

 

世界のホテルデザイン事例に学ぶ、壁紙の取り入れ方

パネルディスカッション中盤では、「ホテル」を題材として、パネリストとして登壇した壁紙メーカーの方々の施工事例や、国内外のホテルでとくに壁紙が印象に残ったデザイン事例についての紹介もありました。

富士工業株式会社の南光氏が紹介したのは、シンガポールにある「ヨーテルホテル」のカフェ。

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シンガポールのアイコンとしても有名なマーライオンのイラストが描かれた壁紙が使われています。

「インクジェットで、マーライオンや植物公園などを表現してデジタルプリントしました。ベースとなったのは塩ビやフリースではなくて、パルプチップベースの壁紙なので、近くで見ると凸凹がわかり、素材感のある製品に仕上がったなと思っています」

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「コスモポリタンホテル ラスベガス」では、カラスビーズでストライプのラインを表現した、ヨーロッパの有名ブランドに収録されている壁紙が使われました。

「照明をうまくマッチングさせて、キラキラと光り、近くを歩くと光が移っていくように感じられる、そんなコンセプトの商品です」

 

中村表装株式会社の前田氏は、印象に残った壁紙事例として、オランダで宿泊したホテルを挙げました。

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「各部屋とも全て柄が異なる壁紙を使っているんです。仲間が泊まっている別の部屋も見に行かせてもらいました。日本国内のホテルではあまり見かけませんが、オランダのデザインに対する考えの素晴らしさを感じました」

 

続いてコーディネーターの網村氏が紹介したのは、パリのホテルの事例。

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「壁紙に関するお仕事で宿泊したホテルです。最近のトレンドのひとつとして、ホテルを家庭的な雰囲気にするという傾向もあるのではないかと思っています。このホテルもまるでお家のような雰囲気で、照明もちょっと楽しい使い方をしていて、印象に残りました」

 

株式会社トミタの富田氏は京都のビジネスホテルを紹介してくれました。

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こちらの例では、エントランス部分に素材感のある壁紙をアクセントとして使うことで高級感のある雰囲気になっています。

「天井面と、正面の赤い部分には少し良い素材を使いたいということで、職人による手作りシリーズの壁紙を使っています。良いもの、面白い素材の壁紙はなるべく無駄にしないようにと、余った部分を建具の引き出しの表面に貼ったりもしました」

良いものはやはり比較的高価にはなるものの、部分的に使うだけでも空間を変化させることができるのです。

プロの目線でとらえた壁紙術は、どれも空間づくりのヒントになりそうなアイデアが満載でした。

 

未来の壁紙は、大量生産から、よりユーザー目線重視で丁寧につくられる

ディスカッションの締めくくりは、“未来の壁紙のあり方”について議論されました。

 

網村:以前に寳田先生の事務所にお伺いしたときに、未来に向けてどんな壁紙が必要だろうかということをお話したところ、“ユーザー目線の壁紙”というキーワードをいただいたことがありました。作り手が作りたいものではなくて、使いたい人たちの目線というものが、これからは必要になってくるのではないか、ということでした。

寳田:たとえば私の事務所にはメーカーさんの壁紙カタログがぎっしり詰まった棚があるのですが、頻繁に見たり、実際に使ったりしているのはその中のせいぜい10分の1くらいなのです。

各社とも、さまざまなニーズに応えて壁紙をつくっていらっしゃると思うのですが、大量につくった中から選んでもらうというのは、昭和の時代の話。平成が終わり令和の時代に入ったいま、本当に必要なもの、リアルなものを一つひとつきちんと大事につくっていくということが求められているのではないかと思うんです。

網村:パネリストのみなさまの会社では、未来に向けて工夫されていることや、こうしていきたいという展望はございますか。

南光:私が普段心がけているのは、よい製品を作るということは、もちろん一生懸命やりますが、やはりその壁紙がある空間にいることで、気持ちが幸せになったり高揚したりする、そういった空間作りのお手伝いができれば嬉しいなと思っています。全ての製品で実現できるわけではありませんが、ある程度デザインにこだわることができる製品では、その壁紙と同じ空間にいる人が驚いたり、うきうきするような、そういう製品を作っていけるように努力しているつもりです。

前田:弊社は施工会社であるということもあり、施工力の高さを一番大事にしなければならないと思っています。仕上げというのは本当にとても丁寧にやらないと、クレームになります。職人一人ひとりについて、どんな壁紙でも張れるとか、自ら勉強して、素晴らしい壁紙をお客様に提案できるとか、そういった力をつけていかなければなりません。

富田:壁紙に関わる全ての人たち、たとえば製造、流通、販売、施工、デザインなど、さまざまな職種の人たちが、もっと横のつながりをもち、情報を共有しながら進んでいくことが必要だと思っています。今日も会場にたくさんの人たちにお集まりいただいていますが、我々を含め、みなさんがエンドユーザーでもあるわけですから。あまり遠慮せずに、もっとぶつかるとこはぶつかって、ちゃんとこの業界を盛り上げていきたいです。それに、手作りにしても機械生産にしても、やはり投資が必要なはずです。新しい素材や技術の開発を見据えたときに、きちんと次への投資ができるような工夫をしていけば、まだまだ新しいことができるはずだと考えています。

寳田:これから業界を盛り上げていくためには、いかにエンドユーザーに響くようにプレゼンテーションできるかどうか、そこにかかっていると思っています。それは作り手も売り手も、僕ら使い手も、やっぱり三者が協力して、エンドユーザーに向けてやっぱりきちんと同じ軸を持って発信していくというのが一番大事ですよね。たとえば、この壁紙を、違う壁紙に変えることによって、あなたの生活がこういうふうに豊かになりますよ、気持ちがすごく豊かになりますということを伝えていかなければいけない。

日本人の住宅が、壁紙によってこんなに変わるのだということを、私たちがきちんと示していかないと、エンドユーザーに響いていかないのではないでしょうか。

網村:壁紙を提供する側である私たちも、ユーザー目線重視という流れを受けて、提示していくということが重要だということですね。

寳田:とても大事だと思います。やはり相手は素人さんですから。作り手側が、これを使うことによってどう変わるかということを伝えていく必要があります。

今の20代、30代の若者は、大量消費の時代を知っている私たちとは考え方が違っていて、よりリアルなものを求めているし、無駄な贅沢はしない世代です。彼らに対して、壁紙の価値観をきちんと伝えていかなければなりません。そうなると、ビニールクロスの一つひとつに対してもストーリーをひも付けていくといった工夫が必要かもしれません。今はシリーズ名は付けられていても、バリエーションについては品番しか付けられていなかったりします。番号ではなく、もう少しエモーショナルな言葉で上手に伝えられるといいですよね。この柄はどうやって作ったのか、どんな思いで作ったのかというところを知りたいですし、そこに本質があると思っています。そういうところからでも少しずつ変えていくことで、何か新しいことにつながるのではないかという気がします。

 

大量生産の時代から、個性を重視した、よりユーザーの立場に近い感覚をもった壁紙づくりの時代へ。それは私たちエンドユーザーにとっては、より理想の空間をつくりやすい未来が待っている、ということでもあるのでしょう。