住空間とはまた一味違った工夫を凝らした空間づくりが光る、ホテルのインテリア。そのデザインにおいていま注目を集めているのは“壁紙の使い方”なのだとか。今回は国内外で数々のホテルの建築設計を手がけるthe range designの寶田 陵氏に、最先端のホテルデザインについて教えていただきました。国内外のホテル事例をずらりと14軒ご紹介! あなたの理想のお部屋づくりの参考になるかも。

 

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寶田陵氏

the range design株式会社 一級建築士事務所 代表取締役。ホテル・旅館をはじめ、共同住宅、商業施設、オフィス等の幅広い分野で建築設計およびインテリアデザインを手がける。近年ではプロジェクトにおける企画プロデュースやデザインディレクション、家具や照明器具などのプロダクトデザインにも活動の幅を広げ、新しいライフスタイルを生み出す建築。空間づくりにチャレンジしている。2019年に著書『実測 世界のデザインホテル』を上梓。

 

ニューヨークの最先端は“日本的”デザイン!?

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最新ホテル事例の1軒目は、2019年にニューヨークにオープンした「Hotel Sister City」。こちらは世界のライフスタイルホテルの先駆けとなった「エースホテル」のチームが手がけた、20代〜30代の若くて感度の高い世代をターゲットとした新感覚のホテルです。

外観はアーティスティックでありながら、内部はどことなく“日本的”でシンプルなデザイン。織物調のテクスチャーが映える壁紙を使い、腰から下の部分には木のパネルを組み合わせています。

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「アメリカは塗装による、真っ白でプレーンな空間が多かったのですが、このホテルは今までのアメリカにはなかったような日本的な考えを感じるデザインになっています。小上がりの空間などもあり、全体的に日本のデザインの考え方に影響を受けているのかもしれません」(寶田さん)

 

元銀行ホテルに和モダンホテル。ロンドンはコンセプト重視!

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ロンドンでいま話題のホテルといえば、金融街にある「THE NED」。風情のある建物は実は元銀行。巨大な金庫の扉がそのまま残され、内部は“金庫仕様”の壁でデザインされたバーとして営業しています。

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ホテル客室の色の使い方はシンプルながらユニークで上品! ブルーグレーとホワイトのバイカラーになっている壁は、腰の高さではなく天井に近い高さで区切られています。境目には白い幅木を施していて、どことなく上品で表情のある空間に。

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「これは壁紙ではなくて塗装なのですが、とても参考になりますね。塗装のデザインを、日本の壁紙で表現するとどうなるか、よく考えることがあります」(寶田さん)

 

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「もしかして日本の旅館?」と思ってしまいそうなこちらのホテルも、ロンドンの事例。和食シェフとして世界にレストランを構えるノブ・マツヒサ氏が経営する、ヨーロッパ初のホテルがこちらの「NOBU Hotel Shoreditch」です。

和食レストランが母体というだけあって、客室の雰囲気も和モダン。まるでコンクリートのようなシックな壁紙が、カーテン代わりの格子扉と絶妙にマッチしています。

廊下の色使いも特徴的。上はマットな黒、下はツヤのある黒と、同じ黒でも質感の異なる塗装を使っていて、光が当たるとグラマラスな空間になるのです。

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「日本の壁紙の中にも、マットなものとそうでないものがあります。この塗装のように使い分けたり組み合わせたりすることでさまざまな表現ができることの好例です」(寶田さん)

 

カラフルな色使いとオリジナルグラフィックが光る、ミラノのホテル

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部屋の中でひときわ目を引く、アーティスティックなグラフィックの数々。これらは全てデザイナーの手によるオリジナルグ壁紙です。スペインの女性デザイナー・パトリシア・ウルキオラが手がけたカラフルでポップな空間が光るこちらのホテルは、ミラノの「ROOM MATE JULIA」。

客室内のグリーンの壁は、壁紙の上に塗装を施したもの。壁紙に塗装することで凹凸のある表情が生まれ、温かみが感じられる空間に。天井はドットで構成された格子柄のグラフィックで、パトリシアがオリジナルでデザインしたもの。カーテンも同じデザインで統一されています。まるで部屋全体がアートのよう。

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「ミラノでは、4月のミラノサローネでの展示からもインスピレーションを受けました。家具メーカーであっても家具だけを見せるのではなく、インテリア全体を考え、まるで部屋をつくるように展示していたのが特徴的でした。壁紙や塗装でトレンドを取り入れることも多く、2019年は少し色味を暗い方向へ振ったパステルカラーがとても多かった。これから出てくる壁紙は、きっとその影響を受けるのではないでしょうか」(寶田さん)

 

上海では壁紙の使い方で“上質”を表現する

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中国最大の国際都市・上海からは2つのホテルをご紹介!

ラグジュアリーホテルとして名高い「THE PULI HOTEL&SPA」で特筆すべきは、廊下に使われている織物調のクロス。一面に貼らずに、50センチほどのピッチで目地を入れて区切って貼っているため、より壁紙の質を高めて見せる効果があります。

客室内も同じような壁紙の使い方をしていて、高級感あふれる空間となっています。

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「壁紙の表現として、1枚を広く貼るのではなく、線を1本引いて区切るだけで、きめ細やかで上質な表情を出せるのだということが、とても勉強になる事例ですね」(寶田さん)

 

2019年開業の新しいホテル「THE MIDDLE HOUSE」でも、壁紙で新しい試みを行っています。

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部屋に貼ってあるメインクロスを、冷蔵庫の扉と、クローゼットの扉にも貼っていて、全体のイメージをプレーンな印象に統一し、品のある空間に仕上げているのです。

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「壁紙を貼る職人さんと、建具や冷蔵庫を作る職人さんは違いますから、日本では多くの場合、我々がやりたいと思っても施工の現場では実現しにくいのが実情なのです。でも、それを「THE MIDDLE HOUSE」では簡単にやっている。やり方さえ考えれば実現できるのだな、と感じました」(寶田さん)

 

日本のホテルデザインだって負けてない!最新トレンド4選

1:アートやグラフィックのクロスをワンポイントに

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2013年にできた「新宿グランベルホテル」の客室は、壁の一面がアートのように機能しています。

「当時はまだ壁紙のバリエーションも少なく、塗装に近い質感が主流でした。

その中で、一部をパッと印象的な壁になるようにと、カンボジアのアーティストに絵を描いてもらい、特注で壁紙を作りました。ほかにはアートは一切なく、壁紙でアートを表現した事例です」

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「bespoke hotel Shinjuku」では、壁紙に鍵カッコ付きのグラフィックをペインティング。

「“ビスポーク”という言葉は、“あなたのために特別に仕立てる”という意味合いです。それに沿うように、部屋ごとに何か職人さんがひと手間かけるということをコンセプトにしました。グラフィックデザイナーの川上シュンさんにデザインをしていただいたグラフィックを、壁紙の上にペイントしています。壁紙は、ペインティングするのに一番適したものを厳選しています」

 

2:光と壁紙の“素敵な関係”をつくる

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大阪・梅田にある「NEST HOTEL OSAKA UMEDA」では壁紙単体ではなく、家具などのほかの要素とも合わせてトータルで空間がつくられています。青いもの、それから白い幅木、色の付いた建具、それからちょっとスチールの質感が入った家具。そういったものの組み合わせで部屋の世界観を作りあげました。

壁については、光の使い方、照明の当て方にこだわりが。

 

「光を当てるだけで、壁の表情はすごく変わります。光があるのとないのとでは、壁紙の効果がまるで違ってくるんです。白くてプレーンな壁紙でも、凹凸があるものなら、光をあてることで、きれいに、表情豊かに見えます」

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お次は「渋谷グランベルホテル」のデザインスタジオYOYとコラボレーションしたスイートルーム。こちらは壁紙と光を使った斬新なアイデアで、“光るアートの家具”を実現しています。

壁と天井は同じグレー調の色で統一されたシックな空間。スイッチを入れると……なんと光るヘッドボードや照明器具が現れます。

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壁にLEDライトを仕込んだボックスパネルを設置し、その上から壁紙を貼ってこうした演出をしているそう。何度も失敗を重ねながら目指す姿を追求して完成した、“光×壁のアート作品”です。

 

3:アーティスティックな壁紙でフォーカルポイントをつくる

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こちらの「BESPOKE HOTEL SHINJUKU」では、一部分に特別な壁紙を使っています。金箔の強さと、ランダムなドットによる柔らかさがあいまった、存在感ある壁紙は「サンゲツ壁紙デザインアワード」第1回で大賞を受賞した作品。

「実はこれはグラフィックデザイナーではなく、彫刻家の方がデザインされたものなのです。壁紙の価値観を変えた壁紙だと思っています。高価なものなので、一部分にしか残せませんでしたが、とても効果的で、印象的な空間になりました」

 

4:木目調クロスはちょっとした工夫で“上質見せ”が可能!

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最後に、住宅における壁紙でも人気の高い、木目調の壁紙の使い方の工夫をご紹介しましょう。

「BESPOKE HOTEL SHINSAIBASHI」のヘッドボードは、木目調のクロスを使用していますが、一面にベタッと貼るのではなく、ある程度の間隔でクロスを巻いた“桟”を配置し、空間にリズムを生み出しています。さらに照明を当てると陰影が現れ、より上質さを感じられます。

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「浜町ホテル」の客室でも木目調の壁紙が大活躍。この部屋の中で「木目調」のものは、たくさんありますが、同じ見た目でも、壁と天井は壁紙、窓際の門型のフレームは塩化ビニール、床はフローリング、ヘッドボードはメラミンと、実は4つの材質を使っています。壁紙や建具メーカーの努力により、さまざまなザインの仕上げ材が販売されています。その中から何パターンも組み合わせを作って、しっくりくる組み合わせを模索して完成したデザインなのだとか。

 

海外のホテルも日本のホテルも、素敵な空間にはさまざまな工夫やアイデアが隠されていました。次にホテルに泊まる機会があれば、お部屋作りのヒントになるアイデアに注目して、たくさん見つけてみましょう!