自分好みの“理想の空間”をつくるには、何からはじめればいいのだろう?
そのヒントは、インテリアデザインの最新トレンドが集結するミラノサローネにありました。

世界最大の家具見本市であり、期間中の来場者は実に30万人以上。同時期にイタリア、ミラノ市内で自主的に行われる展示イベントと合わせて「ミラノデザインウィーク」と呼ばれ、世界のインテリアデザインの最先端を垣間見られる機会です。ミラノサローネを訪れ、インテリアの最新トレンドを肌で感じてきたプロフェッショナル2人に、トレンドを取り入れた空間づくりのヒントをお聞きしました。

インテリアデザイナーとして国内外で活躍し、今回、全く新しいコンセプトのエアコン「risora(リソラ)」のプレス発表会のコーディネートも担当する・網村眞弓さんと、ダイキンのデザイングループのリーダーであり、「risora」をはじめ数々の商品を世に生み出してきた関 康一郎による、スペシャルインタビュー。
【前編】では、世界的なトレンドや傾向について語ります。

“自分好み”を実現できるインテリア 見せ方も、企業目線からユーザー目線に

-2019年4月に、第58回国際家具見本市「ミラノサローネ」が開催されました。毎年訪れ、長年にわたりその動向を把握しておられる網村さんと、今回出展者としても参加された関さんに、それぞれミラノサローネから感じ取った印象をお聞かせいただけますか。

_C1A7286.JPG網村:
今年のミラノサローネは、「楽しいもの」がとにかく増えた印象を受けました。かつては、マテリアルの高級感を打ち出したり、最新のテクノロジーや機能を披露したりするようなブースが多かったのですが、ここ数年は「どう自分らしく生きるか、そのためにインテリアはどうあるべきか」というテーマが色濃くなってきたように思います。
一人一人の好みに合わせて、カスタマイズの楽しさが加わったようなアイテムや空間の見せ方にとても魅力を感じました。
インテリアは本来、家の中のプライベート空間であり、“巣”を作るような感覚ですよね。だから家にいるときや、帰宅したときに、少しほっこりできるような雰囲気をまとったものが、ミラノサローネではすごく勢いをもって感じられました。
_C1A7301.JPG関:
出展の内容も見せ方も、ユーザー目線に変わってきたのでしょうね。少し前までは、家具ひとつとっても、完成されたデザインをどんと打ち出していて、とてもかっこいいけれど、「うちのリビングに合うかどうか」はまた別、という感じだったと思うんです。
今回のミラノサローネでは、そうならないように、たとえばこんな使い方はどうでしょうという提案や、自分の家で合わせるならどうなるかを想像できる空間設計がされているブースがとても多かったように思いました。形やデザイン自体は同じものでも、“伝え方”の配慮がものすごくされているという印象です。家具やプロダクト単体の美しさや機能を見せるより、空間全体で見せるケースが多くなっています。
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フリッツハンセン: 実際にすぐできそうな展示提案。アースカラーをベースに紺やカーキーをアクセントに組み合せ、温かみのあるインテリア展示。
© 2019 Color Design Firm mayumi amimura

網村:
「もしこのインテリアを自分の住空間に持ち帰ったらどうなるかな」って、ヒントになるような展示なんですよね。メインの家具と、サイドテーブルやちょっとしたスツールを組み合わせて空間を作っていたりして、「こうやって使えばいいのか」、「これを持ってみたい」と思わせるような展示の仕方でした。
「企業側が見せたいものを提示する」のではなく、「どう見てほしいか」を考えているのだなと思いました。
目線が、見ていただく側にあるんだと思います。主語が変わってきたのでしょうね。

関:
見る人に、問いかけている感じがするんですよ。自分のシーンに置き換えてみることができるから、共感力があがったり、本当に欲しいという気持ちが湧き上がったり。そうしたユーザー目線というものが、結果的に、カスタマイズ性などの傾向につながっているのかな。カスタマイズされたものがたくさんあるというわけではなく、ユーザーがカスタマイズできる可能性を感じさせる展示なんです。

網村:
最後はユーザーに委ねているというか、ちょっと余地を残しているような印象ですよね。

—その傾向は、ユーザー側も変わってきたから、なのでしょうか。

網村:
そうだと思います。ユーザーの方たちは本当に熱心にいろいろなものを探しています。SNSを通してのリアルタイムな情報発信が日常的になった現代では、いつでもどこにいても、たとえばサバンナの草原にいたとしても情報を見ることができますよね。
情報を瞬時にシェアしていける時代において、引っかかってくるものって、「心地いいもの、響くもの」なんだと思うんです。ミラノサローネでも、そうした人の心に響く“引っかかり”をもったブースは、反響が反響を呼んで、日増しに訪れる人が増えていったようでした。

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moooiのユーモア溢れる照明と温かみのあるバーントオレンジの壁紙
© 2019 Color Design Firm mayumi amimura

関:
ミラノサローネといえば、昔は、プロフェッショナルのマニアックな人たちが情報収集をするための場所だという感覚がありました。でも今は、デザインに興味をもつ学生さんたちや一般ユーザーも多く、面白いと思ったものを撮ってその場でインスタグラムにアップする、という光景も多く見られ、情報の拡散の仕方も変わったような気がします。

網村:
ダイキンさんは市内で行われたフオーリサローネに出展されていましたが、長蛇の列ができていましたね。私が最初に行った日は入れず、次の日の朝一番を狙って行ったんですよ。

関:
ダイキンはnendoさんと組んで、新しい空気を感じさせるインスタレーションを行いました。中も暗くて入り口も小さく、説明もほぼなく、中に入ってみないと何をやっているかがわからないようにあえて設計していたんです。ミラノサローネの展示が始まってから、実際に見た人が情報を拡散してくれて、日増しに反響が増えていきました。誰かに伝えたい、シェアしたいと思えるような空間の体験・体感がないと広がっていかないので、ある意味狙い通りとはいえ、嬉しかったですね。

※顧客が展示空間にいて体験できる芸術作品のこと

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元気になるカラーやエネルギーチャージできる空間が、世界的トレンドに

—ユーザー好みのインテリアを作りやすくなっているような印象ですね。具体的には、どんなアイテムやスタイルがトレンドなのでしょうか。

網村:
ミラノサローネのほかにも、毎年パリとドイツで発表されるインテリアトレンドをチェックしていますが、そこで言われたのが、いまのインテリアは世界的に「都市型傾向」にあるということでした。一人住まいや、狭小住宅が非常に増えるだろうと予測されています。それにともない、インテリアも、個性が反映しやすくなっていますし、フットワークの軽い、比較的コンパクトな家具やインテリア製品が好まれるようになっています。
また、デジタル化が進んでいるので何かと忙しく、絶えず情報が入ってくる状況にある現代人にとって、帰宅したときにほっとする場所であってほしいという思いから、楽しい色合いや、角のとれたやさしいデザインが増えています。好きなものに囲まれて、自分の“巣”だと思える空間で明日への力をチャージするイメージですね。自分自身が楽しくなれたり、ゆったりリラックスできたり、明日頑張るためのエネルギーをチャージするといったようなテイストが求められていると思います。

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明るく楽しそうなインテリア MOROSO
© 2019 Color Design Firm mayumi amimura

関:
エネルギーチャージする、元気にするという印象は僕もミラノサローネで感じました。
あくまでも僕個人の感じ方ですが、去年まで、自然に近いアースカラーのアイテムが多めだと思っていたんです。でも、今年は’70〜’80年代を思わせるような、明るい色がちらほら見受けられました。ビビッドまではいかなくとも、原色系の色が増えた印象です。なぜだろうとメンバーとも話をしていたのですが、やはり、「気持ちを癒す」という方向性から、ちょっとでも、「元気にする」という志向になってきて、彩度が高めになってきたのではないかと思ったんです。

網村:
イエローや、バーントオレンジが目立っていましたよね。ベースとなるアースカラーの延長線上にある色だから、馴染むんだけれど、ちょっと楽しくなるような。
ミラノサローネで感じた一例ですが、ある家具メーカーの製品ブースはとても居心地がよくて、理由はよくわからないけれど「ずっとここに居たい」と思えたんです。なんとなくフレンドリーだし、色がきれいでちょっと嬉しくなるし、かといってうるさいわけではなくて、とにかく心地いい。

関:
すごくよくわかります。

網村:
そのメーカーは市内で「色やデザインが人をどのように幸福にするか」について、心拍や汗を計測する装置をGoogleと一緒になって開発し、実験していたそうなんです。この事は後から知ったので、余計に感動しました。そういうことを気にしながらデザインされていて、ものごとって偶然じゃないんだなと思ったんです。やはりしっかりと考えられているもの、手をかけられているものって、そういうDNAをもった製品として表れてくるんです。プロセスって、きちんと見えてくるんですよね。

関:
たとえ工業製品であっても、きちんと考えられたもの、手間をかけられたものは、伝わりますね。

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カッシーナ/フオーリサローネ展示
藍にイエローとバーントオレンジの温かみのある深い色の組み合せのモダンを演出
© 2019 Color Design Firm mayumi amimura

網村:
年初のパリとドイツで発表されたインテリアのトレンドキーワードのひとつに、「ユートピア」というものもありました。言葉だけ聞くと、なんとも漠然としていますけれど、おもしろいワードですよね。世界中で、いろんな国の人たちが混ざり合う中で、異なる文化背景をもつ人たちがぎくしゃくしてしまいがちなところに、“遊びの感覚”を取り入れるということが、どうも背景にあるようなのです。
子供のころ、遊びを通して、ときにはぶつかったりしながらも徐々に相手を理解していったように、ただ落ち着いているだけではなくて、お互いを知るために、楽しくなるような、背中を押すようなものが必要だということなんです。
ハイストレスな状態、緊張感のある状態を少しリラックスさせるために、楽しさや温もり感というものが求められているんですね。
実際のインテリアには、その場を支配するような重々しいものではなく、ほかのアイテムとうまくマッチしたり、楽しさや喜びを感じさせたりするようなアイテムとして生かされるのではないでしょうか。

→次回記事は、スペシャルインタビュー【後編】
世界的なインテリアのトレンドを、あなたの住空間に取り入れるにはどうしたらいいのか?
インテリアにおける、risoraの活用方法とは? について2人が語ります。

 

<プロフィール>

網村眞弓 あみむら・まゆみ
Color Design Firm 代表、インテリアデザイナー、日本IBM研究所、グレイインターナショナル・メディアプラン、スワロフスキージャパン・PR・CRマネージャー歴任。日本初の小規模多機能高齢者住宅を始め医療・高齢者の施設計画。英国、ケンブリッジ・インスティチュート修了。スイス、エコール・デュ・ボアにてインテリア様式および建築模型制作コース修学。トレンドを経年視察し、市場分析およびアジアでの導入やグローバル戦略セミナー、コンサルティング等を行っている。

関 康一郎 せき・こういちろう
2006年ダイキン工業株式会社入社。「うるさら7」や「risora」をはじめ、ユーザーや業界を驚かせるプロダクトデザインを次々と生み出す。2015年からは「見えない空気を愛されるものにする」というダイキンデザインフィロソフィーのもと、「空気のデザイン」に取り組み、空気で解決できる空間の感動創造、コア技術の見える化による協創促進、ユーザーとのコミュニケーションデザインに挑戦している。